ラーメン店、イタリアン、ワインバー、3店3様の立ち向かい方
39県が緊急事態宣言の解除の見通しだが、まだまだ収束の気配が遠そうなコロナ禍。東京や大阪などの大都市は、引き続き緊急事態宣言下にあり、さまざまな業種の関係者はいまだに頭を悩ませている。
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そんな現状で、特に影響を大きく受けているのがやはり飲食店だろう。東京都の営業自粛短縮の協力金や持続化給付金などの手当てがあるものの、それでは間に合わず閉店する店も増えているようだ。
そんな苦境の中、テイクアウトなどで活路を見出そうと奮闘している飲食店も多い。筆者の周囲でも店を閉めるのではなく、さまざまなアイデアや手法でこの苦境を乗り切ろうとしている店がほとんどだ。そんな店の中で、いろいろな試みにトライしている飲食店に現在の状況や今後の展望を聞いた。
テイクアウトに加えて配達も。渋谷のラーメン店の試み
東京都渋谷区にあるラーメン店「麺屋ぬかじ」は、濃厚魚介系スープのつけ麺や鶏白湯ラーメンが人気の店。この店もコロナ騒動によって客足が激減。緊急事態宣言後も営業時間を短縮して店を開けているが、客数を調整しながらの営業に加え、渋谷に人が減っているため、なかなか売り上げは伸びない。
「通常時から売り上げが65~70%ダウンしています。今来てくださっているお客さんは周辺の工事で訪れている方や、近所に住んでいる方、それに周辺の飲食店の方ですね。特に常連さんやほかのお店の方が来店頻度を上げてくれて。私も周辺で営業してるお店には顔を出すようにしています。お互い様といいますか、こういうときだからこそ協力し合わないとと思って」(店主・貫井宏さん 以下同)
そんな苦境の中で始めたのがチャーシューの配達だ。
もともと「ぬかじ」は2010年に世田谷・上町でオープンし、2014年に現在の渋谷に移転した。そのため、今でも世田谷時代のお客さんが渋谷まで来てくれることも多く、また貫井さんも現在は家族とともに世田谷に住んでいる。そんな関係性もあり、この状況でなかなか店まで来られない地元・世田谷のお客さん向けに、エリアを限定してチャーシューの配達を開始した。
「当初は店頭でのテイクアウト販売のみでしたが、今は週末限定で妻と二人で手分けしてチャーシューを1本(約600~800g、2000~3000円)から配達しています。
SNSなどで告知をしたらすぐに地元の常連さんが注文をしてくれて、土日の2日間だけですが、15~20本の注文があり、この売上だけでもだいぶ助かりますね」
また「ぬかじ」ではビール好きの貫井さんが厳選した全国各地のクラフトビールが飲めるのも人気だ。4月から新型コロナ対策として、申請すれば一時的に酒販免許が交付されるようになり、店内での提供だけでなく、持ち帰りや配達などで販売することもできるようになった。また、東京都の休業協力金など、申請できるものはすばやく申請もしている。
「持続化給付金については売り上げの推移を見て、資格があれば申し込む予定です。うちは1店舗だけなのでまだいいですが、ほかに3店舗以上経営している方はかなり厳しいようです。固定費だけで月に100~200万円かかりますから。
正直、今のような状況が向こう2ヵ月続いてもしょうがないかとは思っています。ただ、8月になっても収束しないようだとさすがにキツいですね…。それに、たとえ収束したとして、すぐに売り上げが戻るとは思えません。戻っても通常の7割程度ではないかと。むしろ収束後のことが心配です」
そんな先の見えず気苦労が絶えない中、ありがたいこともあるという。
「一般の方たちの『飲食店を応援しよう!』という気持ちがすごくうれしいです。飲食店だけじゃなく、ほかのみなさんやうちを応援してくれる常連さんの中にはもっと大変な状況の方もいるのに…。ここでみなさんから受けた気持ちはずっと忘れないようにしたいですね」
◆テイクアウト&レシピ公開で地元に還元 世田谷のイタリアン
世田谷区にあるイタリア料理店「aletta(アレッタ)」は、イタリアや国内の有名店で修業した常盤太郎さんの料理と、フランスワインのペアリングが楽しめる店。
こちらは繁華街ではなく、住宅街の中の商店街にあるのため近隣の地元客が多く、新型コロナ騒動の後も、常連客がよく店に来てくれているという。
「気にかけてくれる常連さんのおかげで売り上げは25%ダウンくらいでどうにか持ちこたえています。料理を真空パックして冷凍して販売しているのでその売り上げも大きく、通常の飲食の売り上げだけでは50%以上ダウンしていました」(常盤太郎さん 以下同)
常連さんついているとはいえ、新型コロナの感染予防対策として、お客さんは1日3組まで。店内の換気と席の間隔を開けるなど、十分に気を配るなど、営業するにしてもいつも通りとはいかない。それでもお客さんが来てくれるのは、やはり立地の面が大きい。
「用賀は僕の地元で、地元のお客さんが多いのが強みです。なかなか外出もままならず、遠くのお店にも行けないので、うちが店を開けていると『たまには人としゃべりたい』『空いていて助かるよ』なんて言ってくださったり。そういうお客さんにこちらも助けられています」
常盤さんも酒販免許にいち早く申請し、料理に合うようにセレクトしたワインの販売もしている。
「騒動になってから、テイクアウト販売や酒販免許の申請など、できることはいち早くしてきたつもりです。店を僕一人でやっているからこそできたことですね。従業員が大勢いたり、何店舗も経営していたりするとそうはいかないと思います。
思いついたらフレキシブルにすぐ行動できるのがうちの強み。この騒動を機に『なんでもやってみればいいんだ!』ということを学びました」
さらに、常盤さんはSNSなどでレシピを公開して、家でも作れるようなレシピを紹介している。さらに、売り上げが激減している仕入れ業者にも、多少の助けになればと多めにとれるものは多く注文しているという。
「たとえば、魚屋さんだったらカマスを大量に仕入れて一夜干しにして、冷凍してお客さんに販売したり。手間のわりに利益は少ないですが、誰も損をしていないので、まぁいいかと(笑)。
レシピを公開したのも、地元のお客さんの外出自粛中の暇つぶしになればと思って。あまり難しいレシピは載せていませんが、どうしても作れないという人には販売もしていますよ(笑)」
また、今回のコロナ騒動では、修業先のイタリアや店で提供しているワインの産地であるフランスにも特別な思いを寄せいている。
「人がいないイタリアの街を空撮した映像を見たとき、あの街がこんな風になってしまって…という思いが胸にこみ上げました。
修業時代に3年を過ごした国なので愛着もありますし、一緒に働いたメンバーのことも心配になります。フランスへはちょうど昨年、うちで扱っているワインのワイナリーにお邪魔したばかりなんですよ。大丈夫かなと心配しましたが、ワイナリーはみんな田舎にあってパリや都市部ほど大変なことにはなっていないと聞いています。
それでも、飲食店の売り上げがかなり減っているので、経済的な影響がないかと心配ではありますが。騒動が収まったら、またイタリアやフランスを訪ねたいですね。それまで、僕もイタリアやフランスのみんなも無事でいてくれることを祈っています」
◆クラウドファンディングで常連さんの心遣い 世田谷ワインバー&カフェ
こちらも世田谷区用賀にある「ワインカフェ用賀」は、ワインと中華料理やフュージョン・創作料理が楽しめる店。5年前に前オーナーから現店主の東山嘉一さんが店を受け継いで、ワインと中華料理のペアリングなど、さまざまな試みでワインの楽しさを提供してきた。
「2月は売り上げがよく、毎年送別会などで使ってもらえる3月に期待していたのですが、この騒動で3割減でした。4月に入ってからはテイクアウト販売のみにしていますが、昨年の半分も売り上げがない状態。もうボロボロで…」(東山嘉一さん 以下同)
そんな苦境で始めたのがクラウドファンディングだ。4月半ばにスタートして、6月末まで支援募集を続ける。
「始めるとすぐに常連さんが支援してくれて、今(5月13日現在)で約30%達成しました。テイクアウトもSNSで毎日メニューなどを告知しているのですが、常連さんが気にかけてくれて買ってくださってくれます。それに、SNSを見た新規のお客さんも来てくれて。テイクアウト販売を始めたことも新しいお客さんの獲得にもなっていますね」
クラウドファンディングでは3000円以上の支援で支援金額の10%増しの食事券をリターンとして付けているが、最高金額の1万円の支援をしている人の割合がもっとも多いという。
「やっぱり地元の常連さんは心強いです。そういった地元のお客さんの支えやクラウドファンディング、東京都の協力金、給付金などで2~3ヵ月はなんとかなりそうです。
あとは、騒動がもう少し落ち着いたら、まずは完全予約制にしてお店の営業も再開したいですね。ただ、クラウドファンディングのリターンの食事券を一気に使用してもらえるかと思うと…、少し心配ではありますが、ま、しょうがないですね(笑)。
早く通常営業を再開して、支えてくれたお客さんへの恩返しをしたいです」
各店ともさまざまな取り組みをしているが、やはり頼りになるのは常連客や地元客のようだ。この騒動で大変な思いをしているが、新しい試みやアプローチなどで、また違った飲食店の在り方もさまざま生まれたのではないだろうか。この騒動が収束した暁には、なんとかがんばって苦境を耐え抜いた飲食店を積極的に利用したい。
■価格はすべて税込みです。
取材・文・写真:高橋ダイスケ
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May 14, 2020 at 08:02AM
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