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1飲食店が多数の専門店を出すゴーストレストラン、「ズル」でなく業界を変革する訳 - ITmedia

 先日、ネット上で、ある飲食店の取り組みが話題となっていた。その飲食店はコロナ危機で売上高が減少したことからデリバリーに切り替え、同じ店舗でウーバー上に複数の店舗を出店している。

 それぞれを専門店とうたっていたことから、一部から「ズルい」との声が上がっていたが、ネット・デリバリーが主流になると、同じ厨房設備で複数の店を構える動きが加速するのは当然といえば当然だろう。今後のネット・デリバリーの動きについて考察する。

photo 1飲食店がネットデリバリーを通じ複数の専門店を名乗る「ゴーストレストラン」が話題(写真はイメージ。提供:ゲッティイメージズ)

「仮想専門店」はズルいのか?

 話題となっていたのは、ある居酒屋である。リアルでは1店舗だったが、ウーバーイーツでは、唐揚げ、どんぶり、ハンバーグ、カレーなど複数の店舗を「専門店」として出店していた。居酒屋の場合、多くのメニューを取り揃えているので、それぞれを独立させて提供することは、それほど難しいことではない。

 わざわざ「専門店」とうたったのは、ネット上の場合、検索で顧客が来店するので、品目を絞って専門店とした方が選ばれる確率が高いと判断した結果と思われる。

 居酒屋はコロナ危機の影響をもっとも大きく受けた業態の1つであり、どこも経営状況が厳しい。居酒屋チェーン大手のワタミは、すでに一部店舗を焼き肉店にリニューアルすることを決定するなど、居酒屋という業態そのものの見直しを進めている状況だ。この居酒屋も顧客減少を補うため、こうした仮想店舗を出店したものと思われる。

 ネット上では「ズルイ」といった声もあったが、そもそもネット空間では複数の店舗を出店できるのは当たり前のことであり、これはネット通販でもよく見られる手法である。この店舗について批判している人は、専門店とうたっていることを特に問題視したのかもしれない。

 確かに仮想店舗でなければ、こうした展開はできないので、一部の人の目にズルイと映るのは理解できる。

「仮想飲食店」激増の未来

 だが専門店かそうでないのかを決めるのは法律ではなく、お店自身であり、それを判断するのは顧客である。市場というのはそういうものであり、最終的にこの仮想店舗が専門店として優秀なのかは、顧客が決めるしかないだろう。専門店の名前にふさわしくない料理を提供していれば、いずれ淘汰されるだろうし、顧客が受け入れれば、この形態も成立するとの解釈になる。

 このケースは中小事業者だが、既に大手企業も似たような取り組みを行っている。トリドールホールディングスも出資するゴーストレストラン研究所(東京・港)は、ウーバーイーツや出前館などのプラットフォームを利用して、スープ、ヴィーガン、ジビエなど14の仮想専門店を出店している。

photo 多くの料理の「仮想専門店」を展開するゴーストレストラン研究所(同社の公式サイトから引用)

 厨房は1カ所しかなく、各仮想店舗から注文が入ると、それぞれのメニューに応じて調理が行われる。これまでもセントラルキッチン方式を採用する外食産業は多かったので、複数の仮想店舗における料理を同じ厨房で調理することと、セントラルキッチン方式の境界線は曖昧になる。

 仮想店舗と集中厨房の最大のメリットは何と言ってもコストである。

 各チェーン店のファンの人には申し訳ないが、大規模な外食産業では、味による差別化要因の割合は低く、大抵の場合、立地によって売上高が決まる。要するに多少味が悪くても、立地が良ければ勝つという話であり、このため各社は人通りの多い道路に面した物件にこぞって出店してきた。だが、こうした物件の賃料は驚くほど高い。

 だが、厨房を1カ所に集約し、店舗はすべてネット上ということになると、従来のチェーン店より運営コストを劇的に安くできる。厨房は場所を問わないので、格安な物件に入居できるからだ。

 一部の人はあまり納得しないかもしれないが、デリバリーが進むことには良い面もある。これまで外食産業は、高い賃料をカバーするためメニューのマス化が進み、その結果としてニッチで個性的な店が存続できなくなるという悪循環が生じていた。デリバリーの場合、場所に左右されず、集客はネット上で評判に依存するので、ある意味では本当に「味」で勝負することが可能となる。

業界の秩序揺るがす変化に

 これからの時代は、最初から仮想店舗を前提に大幅にコストを引き下げた業態が大量出店してくることになり、5年以内に外食産業の業界秩序は激変するだろう。

 出店に際してコストがかからないことから、副業あるいは脱サラで仮想飲食店を始める人も増える可能性が高い。仮想飲食店を出店したい人のために、キッチンを貸し出すビジネスも増えてくるだろう。

 コロナ危機でテレワークが進み、オフィスが解約されるケースが増えている。テナントがいなくなった雑居ビルの1フロアに厨房セットを置き、時間単位で仮想飲食店に貸し出せば相応のビジネスになる。ここまでくると、仮想飲食店を運営する人は厨房施設すら自分で準備する必要がなくなる。従来の飲食店は、調理から顧客対応まで一括して対応していたが、今後は階層ごとの分業化が進み、より合理的な運営形態となるだろう。

 外食産業で起こっている現象は、この業界だけにとどまる話ではない。現在、消費はコロナ前との比較で8割程度まで戻っているが、それ以上の回復は兆しが見えていない。多くの専門家が、2割減の状況が長く続くと予想している。

 あらゆる業種においてネット対応を強化せざるを得なくなり、それは業界秩序の変化をもたらすことになる。だが新しくビジネスにチャレンジする人にとっては、大きなチャンスといってよいだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。


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